第一章 やる気なし魔術師の入学初日

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「あなたに聞きたいんだけど」 「俺のことはヴァンでいいぞ」 「わかったわ。ねぇ、ヴァン。あなた、私を助けてくれたわよね?」 「ああ、そうだな」 「どうして一回目……草に絡め取られていたときは助けてくれなかったの? その後、どうして二回目は助けてくれたの?」 「ああ、そんなことか。一回目は、見た感じあと一分程度で魔術の効果が切れそうだったじゃん? だから放っておけば、すぐに元に戻るかなって思ったんだけど……ダメだった?」 「えっ? そ、そうだったの?」  見ただけで、マナの総量や動きを詳細に分析できるのか……やはりヴァンは魔術の才覚があるようだ。 「――ってそれを早く言いなさいよ!」  その一言があれば、だいぶ第一印象が変わったのに。それどころか、怒りに任せて複合魔術を発動させることもなかった。どのみち最初の段階で助けるのが、一般的な紳士ではあるが。 「悪い、悪い。まぁ二回目に助けたのはあれだ。単純にリーゼのことを助けたいって思ったんだよ。だってさぁ、あのときは大ピンチだったじゃん? 助かって本当によかったよ」  ヴァンはへらへらと笑いながら説明した。 「単純にリーゼのことを助けたいって思った」――ヴァンの言葉を受け、リーゼロッテの鼓動がどくんと跳ねる。  見た目は覇気のない男なのに、案外男らしい一面もあるらしい。  不覚にも、ヴァンのことをちょっとカッコいいかも、なんて思ってしまった。 「どうしたリーゼ? 顔赤くね?」 「べっ、べつになんでもないわよ! そんなことよりも、早く行きましょう!」  照れ隠しか、リーゼロッテは歩を速めた。 「何怒ってんだよ……まだパンツのこと根に持ってるのか?」  いや、それはたぶん根に持っているだろう。このデリカシーのなさは安定のクズ野郎である。  ヴァンは「女って面倒くせー」と愚痴りつつ、リーゼロッテの後を追った。
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