2930人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
「「デカい……」」
ヴァンとリーゼロッテの声がキレイに重なった。
二人は眼前にそびえる巨大な鉄製の門を見上げている。背の高い堅牢な門は、来る者を威圧するかのごとく立っていた。
リーゼロッテは視線を正面に戻し、門の横に埋め込まれたプレートを見る。
「王立ファウスト魔術学園……入学試験は別会場だったから、来るのは今日が初めてなのよね」
魔術の名門校を前にして、リーゼロッテはおもわず息を飲む。
学園の周囲は高く積み上がったレンガで囲まれている。飛び越えて侵入することはできそうにない。さらに、中にはガードマンとして雇われた一流魔術師がいる。警備は完璧だ。仮に侵入者がいても、必ずガードマンたちに撃退されるだろう。
正門の側には守衛が立っている。黒衣を身に纏い、肩に赤い烏を乗せている。最近では、生き物を使役している魔術師はあまり見かけないが、あの烏は守衛の使い魔だろう。おそらく、上空から園内を監視するための使い魔だ。
なんというか……まるで監獄である。
荘厳なたたずまいの学園を前に、ヴァンは欠伸を一つ。
「くぁっ……さーて、灰色の学園生活の始まりだぁー」
「どんだけ後ろ向きなのよ……」
リーゼロッテがジト目でヴァンを睨むが、ヴァンはまったく意に介していない。
やる気なし魔術師と赤い髪の少女は、守衛の案内に従い、中へと入っていった。
メインストリートを歩いていると、中央広場に出た。
広場の真ん中には噴水があった。その周囲にはベンチと白い机が点在している。あそこで昼食を取るのも悪くなさそうだ……リーゼロッテはこれからの学園生活を密かに思い描く。
最初のコメントを投稿しよう!