第三章 異端魔術師はパンツがお好き

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「喜んでもらえてよかったぁ」  リーゼロッテは安堵の笑みを浮かべている。  ヴァンを騙すことに、リーゼロッテも罪悪感があった。さすがにパンツはあげられないが、何か別のプレゼントをあげることに決めた。  ヴァンは主夫になりたい……そのことを思い出したリーゼロッテは、エプロンをあげようと思いつく。  しかし、リーゼロッテの手先は器用ではない。そもそも、裁縫などほとんどしたことがなかった。そこでアリアに頼み込み、やり方を教えてもらったのだった。  もっとも、アリアはリーゼロッテがヴァンのためにエプロンを縫ったことを知らない。アリアに真の目的を教えると、彼女は協力してくれないだろう。そう思ったリーゼロッテは、実家の母に送ると嘘をついたのだった。  ヴァンはエプロンを見て、なんだか心が温かくなるのを感じる。 (まったく。この頑張り屋さんめ。手がボロボロになるまでやるなよな……)  おもわずヴァンは苦笑する。 「でも、このアップリケはダサいな」 「まさかの批評!? か、可愛いんじゃなかったの!?」 「リーゼ。これ、外していい?」 「駄目に決まってるでしょ! これが一番苦労したんだからね!」 「センスねぇなぁ。パンツでも付けてあれば最高に面白いのに」 「いいけど、それを着るつもり!? あんたのハート強すぎよ!」 「ふんっ!……ちっ、しっかり縫い付けてあるな」 「何取ろうとしてんのよ! 蹴り飛ばすわよ!?」 「リーゼさん、もう蹴ってます!」  ヴァンのすねにリーゼロッテの革靴がヒット。ヴァンは「くそ、妖怪パンツロッテさんめ……」と涙目で悪口を言う。  リーゼロッテは目をつり上げて怒っていたが、その表情はすぐに破顔する。 「これからもよろしくね、ヴァン」  赤い髪を揺らし、嬉しそうに微笑むものだから。 「……おう。よろしくな、リーゼ」  ヴァンもまた、つられて口もとを綻ばすのであった。
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