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「見つけた……」
吐息混じりのつぶやきが、暗い寮室に静かに響く。
時刻はもう深夜の一時を回っていた。消灯時間はとっくに過ぎている。
声の主がルームメイトのベッドを見やる。ルームメイトは目を閉じて、すやすやと寝息を立てていた。
寝ていることを確認した声の主は、写真を一枚取り出した。そこに映っているのは黒髪の少年だった。大きく口を開けて、気怠そうに欠伸をしている。若いのに、まるで覇気がない。
「……ヴァントネール=クロウリー」
写真の少年の名を愛おしそうに呼ぶ声の主。まるで最愛の人に囁くような、熱を帯びた甘い声だ。
――カリカリカリカリ。
「…………誰?」
ヴァンの隣には、赤い髪の少女と金髪ツインテールの少女が写っている。リーゼロッテとアリアだ。
写真を見る限り、二人はヴァンを取り囲んで喧嘩している。ヴァンは二人のやり取りを迷惑がっているといったところか。人によっては、仲の悪い三人組に見えるかもしれない。だが、見方によっては、気の知れた仲の三人組にも見える。
――カリカリカリカリ。
不気味に反響するのは、爪で写真を削る音。写真に写っているヴァンの顔が、少しずつ剥がれ落ちていく。
カリカリカリカリ。
ガリガリガリガリガリガリッ!
声の主が指に力を込めると、ヴァンの顔に穴が開いた。
爪が声の主の手に食い込み、真っ赤な血が滴る。リーゼロッテとアリアの端正な顔が鮮血で汚された。
「……ははっ」
声の主は薄気味悪い笑みを浮かべた。
窓の外に視線を移す。
星の瞬く夜空には、欠けた月が浮かんでいた。
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