第五章 紛れ込んだ宝石<ファリダット>

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 真実はこうだ。  エマはディーをかくまい、その存在を世間から隔離した。そして、たまたま事件に巻き込まれたヴァンは、魔術を受けて瀕死状態に陥る。ディーは呪術に必要な装置をヴァンに埋め込み、彼の命を救った。  ――が、どうしてもわからないことが一つだけある。ディーの居場所だ。  この学園にいる可能性は極めて高いが、手掛かりは未だに見つからない。  それならば……当面のターゲットはヴァンだ。ヤツにディーの居場所を問いただす。  学園長のエマを襲うのはリスクが高い。だが、ヴァンなら狙える。機会をうかがい、捕縛して痛めつける。拷問してでも、ディーの居場所を吐かせてやろう。  ヴァンを人質に取り引きをしてもいいが、あのエマが素直にディーを引き渡すとは思えない。危険な橋は渡らずに、正体を隠しながら任務を遂行するとしよう。  もしもヴァンが、ディーの居場所を吐かなかったら仕方がない。 「殺すまで……」  世界を席巻するためには、ディーの頭脳と研究が必要だし、異端魔術師のヴァンも駒としては使える。だが、ヴァンはいなくても問題はない。利用できない駒は捨てればいいのだ。  声の主は愉しそうに肩を揺らした。声を殺して笑っている。  窓から射し込む月光が、愉悦で歪んだそいつの顔を濡らしていた。
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