第五章 紛れ込んだ宝石<ファリダット>

10/36
前へ
/335ページ
次へ
「なんだ? おつかいくらいなら頼まれてやるぞ?」 「いや、そういうのじゃなくてね。もっと重要な話なんだよ」  ディーは首を横に振ってそう言った。  思わせぶりなディーの態度のせいか、ヴァンの表情も険しくなる。 「何かあったのか?」 「例の犯罪魔術師集団……宝石(ファリダット)がこの学園に紛れ込んだ話、聞いてない?」 「宝石……だと!?」  帰りかけたヴァンだったが、ディーに詰め寄り、彼女の両肩を掴んだ。その剣幕に気圧されたディーは後ずさりする。 「ヤツらはまだ学園にいるのか!? 母さんは何やってんだ! まさか野放しにしてるわけじゃねぇよなぁ!? というか、あいつらの目的はいったいなんだ? いや、それより――」 「い、痛いよ、ヴァン。手を離して?」 「あっ! わ、悪い。つい熱くなっちまった……」  ヴァンは肩を掴む手を離して、申し訳なさそうに縮こまる。  ディーは笑って、「普段は生気のないヴァンらしくないね。少し落ち着こう?」とヴァンの頭をぽんぽん叩く。  ヴァンはヒドい言い草だと思ったが、言い返したりはしなかった。ディーなりに、自分をクールダウンさせようとしてくれているのはわかったから。  落ち着こう。冷静さを失っているようでは、また大切な人が死ぬかもしれない。
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2930人が本棚に入れています
本棚に追加