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「まだ学園見えてこねぇな……」
鬱蒼とした林の中を、見るからにやる気のない少年が歩いている。
少し乱れた黒髪と、くすんだ黒目。歳は若いけれど、年相応の溌剌とした感じはない。新品の学生服を着崩していることも、彼が気怠い雰囲気を醸し出している一因だろう。
「ここを突っ切れば近道って本当かよ……母さんも案外適当だからなぁ」
愚痴をこぼしつつ、少年は重たそうに足を動かし、のそのそと歩いている。
この林を抜ければ、王立ファウスト魔術学園が見えてくる。
少年は今日から魔術学園に通う新入生だ。
新入生といえば、学園生活に不安を覚えつつも、大きな期待を胸に秘めているものだ。勉学に励み、魔術を覚え、友達や恋人を作ったりする……そんな充実した学園ライフを、誰しも一度は夢見るだろう。
この少年もまた、新生活に心躍らせて――。
「あーあ。どうやったら学園辞められるんだろうなぁ……」
……いるどころか、むしろ積極的に辞めたがっていた。なかなかのクズである。
どうして彼は通いたくもない学園に入学したのか。
話は半年前に遡る――。
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