第一章 やる気なし魔術師の入学初日

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「な、何だ? 山賊でも現れたか?」  最悪なシナリオがヴァンの脳裏によぎる。  こんなにも人気のない林の中だ。盗賊どもが女性から金品を巻き上げた後、乱暴するという筋書きは想像に難くない。  声の聞こえた方角から、女性がいるのはこの道の先だろう。 「大変だ! 助けないと!」  ヴァンは弾けたように駆けだした。  ヴァンは魔術に関してはやる気がない。そればかりか、入学初日から学園を退学する方法を考えているようなクズだ。それは誰もが認めるところである。  しかし、性根まで腐っているわけではない。良心くらいはある。女性のピンチを黙って見過ごすほどの人でなしではなかった。  ヴァンは今、誰かのために動いている。もちろん、見返りなど求めていない。襲われている女性を助けたいという、正義の信念のみが彼の原動力――。 「もし助けたら、その子は俺にメロメロだろうな。助けたお礼にあんなことやこんなことをしてくれるかも……むふふ」  ……ではなかった。ただの思春期をこじらせたエロガキだった。 「これより作戦名『助けたあの子で春のパイ祭り』を実行に移すッ!」  なんとなく卑猥な作戦名を口走り、ヴァンは幸せそうな笑顔を浮かべる。  やはり母親の言うとおりである。ヴァンから魔術を取ったら、彼は本格的にクズだ。  ヴァンは女性を助けるため、林の中を疾駆する。足に力を込めて、必死に大地を蹴った。  視界が開ける。密集していた木々はなくなり、草むらに出た。草の背の高さは低く、ヴァンの膝に届いていない。  そんな背の低い草だらけのこの場所で、明らかに背の高い草が正面に見える。天に向かって伸びたその草は、成人男性の身長の二倍以上はあるだろうか。  ヴァンが異常に伸びた草を見上げると、何故か制服姿の若い女の子が草に絡め取られていた。 「あれ、その制服は……」  どこかで見たような制服だと思ったら、ファウスト魔術学園の女子の制服だった。灰色のブレザーに、これまた灰色と赤の混ざったプリーツスカート。学年まではわからないが、ヴァンと同じ学園の生徒のようだ。
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