第一章 やる気なし魔術師の入学初日

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 女の子はヴァンの存在に気づくと、その表情に花を咲かせたように笑顔を見せる。 「あの、そこのあなた! 差し出がましいお願いですが、私を助けてはくれませんか!? 自力では降りられないんです!」  草に絡まっている女の子は、大きな声で助けを請う。  ヴァンは女の子を観察した。  まず燃えるような赤い髪に視線を奪われた。肩まで伸ばした彼女の赤髪は、絹糸のように細くしなやかに映る。  次いで緋色の瞳。まるでルビーのようなその瞳は大きく、見惚れるほどに美しかった。  さらに視線を下に向けたとき、ヴァンは震えた。 「そ、そんな……あんた、俺を騙したのか?」  ヴァンの視線は彼女の胸元に向けられている。 「へ? ど、どういうこと?」 「あんたのおっぱいじゃ……貧乳じゃ『春のパイ祭り』ができねぇってことだよ!」 「本当にどういうことなのっ!?」  女の子、涙目である。  助けるどころか、人のコンプレックスを突いたヴァン。デリカシーの欠片もないクズっぷりだ。  女の子が怒りをぶつけようとしたそのとき、ヴァンは彼女に手を振った。 「それじゃあ俺、先行くわ」 「ちょっと! 何さらっと行こうとしてんのよ!」 「だって俺、入学式あるから」 「私もあるのよ! まさか、その制服……あなたもファウスト魔術学園の生徒?」 「おおっ、あんたも同じ新入生だったのか! 奇遇だな! じゃあ俺、先に――」 「行くなって言ってるでしょ!」  女の子は喰い気味でツッコミを入れた。何故このタイミングで女の子を見捨てて登校しようとするのか……ヴァンの思考回路は理解できない。  ヴァンは露骨に顔をしかめた。 「ええー。助けるの面倒くさーい」 「そ、そこは助けてよ! お願いだから!」 「それに俺、草に縛られて喜んでるあんたの邪魔をしたくないんだが……」 「変態上級者か! そんな遊びしてないし、そもそも喜んでない! 頭にきたわ……あなた! このリーゼロッテ=スカーレットを舐めると痛い目見るわよ!」  リーゼロッテと名乗った少女は、緋色の目でヴァンを睨みつける。  彼女なりに威嚇をしたつもりだったのだろうが、ヴァンには通用しなかった。それどころか、ヴァンは穏やかな笑みを浮かべている。
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