慶長二十年(1615年)五月六日 大坂

9/10
前へ
/130ページ
次へ
弥太郎の問いに、八雲は立ち竦んだままで答えた。 「ああ、二人とも無事でよかった・・・。 細かい話は中でしよう。ところで右近は?」 八雲の言葉に、弥太郎は酒の入った鉄瓶から直に酒を喉に流し込むと答えた。 「右近殿なら、わし等と入れ違いに城外に出て行った七手組(豊臣秀頼黄母呂衆)の軍勢に所に行っておる。」 弥太郎の言葉に、ザイツヴァルトが気色を変えて立ち上がると言った。 「なんじゃと?七手組が城外に出立したと・・・?」 そして、睨むように朔之助を見ると続けて言った。 「朔!道明寺で又兵衛殿の後詰に出た豊前守殿(毛利豊前守勝永)、源次郎殿(豊臣(真田)信繁(幸村))等は?戻っておるのか。」 「いえ・・・まだ帰陣していないかと・・・。」 朔之助の返事にザイツヴァルトは、くわっと青い瞳の宿る眼を見開くと続けて言った。 「なるほど・・・流石は戦上手の御仁達じゃの・・・夜陰に紛れての陣替と見た。」 あたしも含めて、あっけにとられる一同を前に・・・ザイツヴァルトは何かにとり付かれたかの様に、身体を震わせながら言った。 「若!出陣の用意じゃ・・・すぐにも使いが出陣の要請に来よう・・・。 戦はいよいよ大詰ぞよ。」
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加