慶長二十年(1615年)五月六日 大坂

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馬上から・・・ぶん・・・と振った七尺半の薙刀は、敵方の鎧武者の脇腹に当たり、相手をそのまま地面に叩き付けた。 すかさずもう一振り・・・あたしは地面でもがいている鎧武者の背に薙刀の刃を突き立てた。 瞬間・・・乱戦の中、相対していた敵方の藤堂勢先手衆が浮き足立った。 「それ、今ぞ!押せやあ!」 あたしは朱柄の薙刀を大きく振ると、馬上から怒鳴った。 『応!』という、喚声が響き、一ノ瀬勢右先手衆が前へと進み始めた・・・。 よし、行ける・・・あたしがそう思ったのもつかの間・・・背後からあたしを呼ぶ声がした。 「姫夜叉!木村勢が崩れた・・・長門守(木村長門守重成)殿、討ち死に・・・無念じゃ!」 あたしが声のする方に馬を返すと、「赤鬼」事、一ノ瀬四天王の一人・・・異人の血を引くせいか血の様な赤毛を振り乱しながら、真知弥太郎瑠堕が、 これまたその八尺の体躯に似合う、六尺半の斬馬刀を振り回しながら叫んでいた。 「弥太郎、真か?」 「そうじゃ、藤堂勢の他に、木村勢を押し潰しながら井伊勢も左手から寄せとる・・・。 お主は早う、殿の下へ・・・殿(しんがり)はワシと佐和新右衛門に任せんしゃい・・・。」 あたしが、弥太郎が指し示す方を見ると、早駆けで鉄砲大将、佐和新右衛門が率いる鉄砲衆が陣地変更を終えて射撃の体勢に入るところだった・・・。
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