慶長二十年(1615年)五月六日 大坂

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「放て!」 新右衛門の澄んだ声が響くと同時に、落雷の様な音が響いた・・・。 「早う行け!殿を城まで頼むぞ。」 「死に急ぐなよ?」 あたしの言葉に、弥太郎は埃まみれの顔を綻ばせながら言った。 「当たり前だ。一ノ瀬家再興の為に儂らは十余年の雌伏の時を経てここに居るんじゃ。 そんに、儂らが居らんとあん殿じゃ危なっかしいわい。」 「そうじゃの・・・主も引き際を誤るでないぞ・・・御免!」 あたしは、弥太郎に微笑むと、手綱を引き・・・供回りを集めて本陣に向かった・・・。 「遼ちゃん、大丈夫だった?」 馬から降り、床机に座っている男の前に膝を付いた時・・・男・・・一之瀬日向守八雲があたしに心配そうに言ったのが、その一言だった。 あたしは恭しく頭を下げ、八雲の傍に近づくと、周りのものに聞こえないように言った・・・。 「おのれは・・・母呂衆からの連絡も入っておろうが・・・何をのたくたやっとるんじゃ。」
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