慶長二十年(1615年)五月六日 大坂

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「い・・・いや・・・だって、みんなが心配で・・・。」 「阿呆か、おのれは・・・。 『赤鬼』弥太郎も、『二挺短筒』の新右衛門も、お主を逃がす為に殿で頑張っとるわ。」 「で・・・でも・・・。」 ぐずぐず言う八雲に、元々気が短いあたしは遂にキレて大声で言った。 「でもも、何もないわ!あたしが供をする・・・早う馬に乗れ!」 そう言うと、愚図る八雲の首根っこを掴むと、近衆に命じて馬に乗せた。 「あっ・・・遼ちゃん・・・血が出てる・・・。」 馬に乗せて、走り出そうとした時、八雲があたしの頬に手を触れて言った。 「こんなん、唾つけとけば治る!」 あたしは慈しむ様な優しい目であたしを見る八雲のつぶらな瞳に一瞬・・・ドキッとしながらも悪態を付き、本陣に残っている月菜右近に言った。 「右近殿、後は任せた・・・直に弥太郎も新右衛門も退いて来るじゃろう・・・ 陽も落ちかかってきた・・・お頼み申す。」 「わかっとるわ・・・儂を誰だと思っている。越後は、上杉家中柿崎衆の中でもその人有りと言われた月菜右近じゃ。 兵を纏めて無事城に戻るわ。そちは城にて酒を用意して待っておれ。」 白くなり始めた顎髭をしごきながら、右近は答えた。 あたしは大きく頷くと、未練がましくまだそこに居る八雲の馬の尻を薙刀の柄で叩くと大坂城目指して奔った・・・。
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