慶長二十年(1615年)五月六日 大坂

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「ふひゃっひゃっひゃっ・・・ま~た負けおったんかい。 ほんに、負けっぷりだけは天下一じゃのう、若は。」 城内の陣小屋で、戻ってきたあたしと八雲に・・・置物の様に座っていた老婆・・・ザイツヴァルトが言った。 『多・崇孫・ザイツヴァルト』・・・自称、果心居士の弟子の従弟の隣に住んでいたという、唐国から来たという触れ込みの南蛮人の血が入った妖術使いで、先々代から一ノ瀬家に居座っている掴みどころの無い婆さんだ。 「御婆々、敵は多勢じゃ・・・隣を守る長門守殿の軍勢が崩れたんじゃ仕方があるまい。」 何故か反論してしまったあたしに、ザイツヴァルトは言った。 「ほっほっほ・・・関ヶ原では、孫九郎殿(平塚為広)に与力し、小早川勢に一泡拭かせた姫夜叉も、随分と丸くなったのう・・・。 三十路を越えると普通、女は狐狸妖怪になると言うがのう。」 「御婆々の様な本物の妖怪には言われとうないわ。」 悪態をつくあたしに、ザイツヴァルトはけらけらと笑うと、八雲の鎧兜を脱ぐのを手伝い始めた。 あたしは、兜を脱いで光り輝く頭部の汗を拭く八雲に言った。 「あんから、十余年・・・益々禿げっぷりはあがったが、一向に戦には勝てんのう・・・。 と言うかますます神仏に見放されておるぞ? 上杉の御大将の様に、毘沙門天様を毎日拝んでおるか?」
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