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「ふひゃっひゃっひゃっ・・・ま~た負けおったんかい。
ほんに、負けっぷりだけは天下一じゃのう、若は。」
城内の陣小屋で、戻ってきたあたしと八雲に・・・置物の様に座っていた老婆・・・ザイツヴァルトが言った。
『多・崇孫・ザイツヴァルト』・・・自称、果心居士の弟子の従弟の隣に住んでいたという、唐国から来たという触れ込みの南蛮人の血が入った妖術使いで、先々代から一ノ瀬家に居座っている掴みどころの無い婆さんだ。
「御婆々、敵は多勢じゃ・・・隣を守る長門守殿の軍勢が崩れたんじゃ仕方があるまい。」
何故か反論してしまったあたしに、ザイツヴァルトは言った。
「ほっほっほ・・・関ヶ原では、孫九郎殿(平塚為広)に与力し、小早川勢に一泡拭かせた姫夜叉も、随分と丸くなったのう・・・。
三十路を越えると普通、女は狐狸妖怪になると言うがのう。」
「御婆々の様な本物の妖怪には言われとうないわ。」
悪態をつくあたしに、ザイツヴァルトはけらけらと笑うと、八雲の鎧兜を脱ぐのを手伝い始めた。
あたしは、兜を脱いで光り輝く頭部の汗を拭く八雲に言った。
「あんから、十余年・・・益々禿げっぷりはあがったが、一向に戦には勝てんのう・・・。
と言うかますます神仏に見放されておるぞ?
上杉の御大将の様に、毘沙門天様を毎日拝んでおるか?」
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