慶長二十年(1615年)五月六日 大坂

7/10
前へ
/130ページ
次へ
「ここは一ノ瀬家中じゃ、なんぞ用かの?」 あたしは、女官の横に立っている武士から湧き出る凄みに警戒しつつ女官に聞いた。 女官は屈んで頭を下げると言った。 「唐津は寺沢家中のゆうと申します。 当家お預かりの琥太姫様より、お届け物に御座います。」 「何?琥太からじゃと?」 八雲はするすると立ち上がると、ゆうの前に出た。 ゆうは、八雲の前に傅くと、懐から文を一通差し出した・・・。 ゆうから差し出された文を読んだ八雲は、両手を震わせ・・・そして、言った・・・。 「大儀であった・・・。 本来なら何かしらの品を取らせるところであるが、見てのとおりの有様での・・・。」 そして、思い付いたかの様に腰から下げている印籠を外すと言った。 「これで許せ・・・根付は金細工じゃそこそこの値となろう。」 印籠を渡す八雲に、ゆうは恭しく頭を下げると両手でそれを受け取った。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加