四季恋*序章

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その後もテキパキと片付けを済ましてゆき、空が明るいオレンジに包まれるような時間になっていた。 文化祭後の連絡を済ませた部長は「解散です、お疲れ様でした!」と締めくくり、各々が部室を出ていく。私も帰ろうかな、と思っていると丁度いいタイミングで携帯電話が震える。 『今部活の片付けが終わったから、春子良かったら一緒に帰らない?校門前で待ってるね!―夏稀』 夏稀、山吹夏稀さんとは合格発表の日に出会った素敵な人で、今では良い友人としてお付き合いさせて頂いている。 『ありがとうございます。私も丁度終わったので、今から校門に向かいます。―春子』 返事を素早く返し、「お疲れ様でした」と残っている部員に挨拶をして、真っ直ぐに昇降口に向かう。階段を下りて角を曲がろうとした瞬間、今すぐに逃げたくなった。 緋野先生が立っていた。 気づかれないように昇降口に行きたくてもそこの道を通らないと昇降口には行けないし、今すぐ引き返して別の道から来ても同じことだ。 ウジウジしているのがダメだったのか、ふとこっちを見た緋野先生が私に気づく。 よく分からないけど逃げなきゃ、あの人と関わっちゃダメ。 本能的にそう思ったが、間に合わなかった。 「詩翠さんこんにちは。今帰り?」 じわじわとにじり寄られる。というか、何故この人が私の名前を知っているのか。担当教科をもってもらった覚えはないし、接触した覚えもない。こちらから何か言わないと変なことを言われるのかと思ったので精一杯の笑顔で対応してみる。 「こ、こんにちは先生。今帰りです。」 いたたまれなくなった私は当たり障りのない返事をしてどうすればこの場から逃げられるのかを必死に考え、次の言葉を捻り出す。 「あの、すみません私友人と待ち合わせしてるので、失礼します!」 頭を下げて、急いで先生の脇をすり抜けようとした次の瞬間、腕をぐっと引かれ壁の方へ体をやられる。 緋野先生は手を壁について―所謂壁ドンというヤツだ―ずい、と顔を近づける。 突拍子もない出来事に頭が追いつかない。ただ今の自分が理解できる情報は驚く程端正な顔と、タラシ、と言われる緋野先生とは思えないほど綺麗で澄んだ黒に近いブラウンの瞳が真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
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