第1章

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 白積はチェックしていた粘土が密封されているか確認してから、黒板裏の別室へと移る。織部もそれに着いて行き、別室に入る直前にこちらを見つめている女の子たちに笑顔を向けた。女子生徒たちは教室の外にまで聞こえるような悲鳴を上げた。  陽が入らない暗い別室には、小さな窯と鉄パイプにベニヤ板を敷いた棚がいくつもある。その一画にパーテーションで区切られた、三畳程度の休憩所が設けられていた。織部は窓際に立ち、この個室とは逆に午後の明るい日差しに照らされる校庭や校舎を眺めている。白積は壁際の棚に置いたコーヒーサーバーからコーヒーをふたり分入れて、中央のテーブルへ置いた。スラックスのポケットに両手を入れて立っている織部の後姿を、気づかれぬよう静かに見つめる。まるでメンズブランドのカタログから抜け出たような、皺の入り方まですべて完成された後姿に見えた。 「式島社の仕事は進んでいるか?」 「はい、今月末にはお届けする予定で進めています」  織部はコーヒーを取って窓辺に軽く腰掛け、白積は椅子に座ってコーヒーを口に運ぶ。織部がこちらを見ているのを気づいていながら、白積は意識していないふりをしていた。  白積は、大岩町に支店を置く式島社から三ヶ月毎に仕事を受注している。20センチほどの高さの蓋つきの壷を、30から40口納品している。絵柄は白積にまかされ、今のところ一度もクレームは受けていない。その仕事は、織部が紹介してくれたものだった。  ふいにチャイムが鳴り響き、教室から出てきた生徒たちの楽しげなざわめき声が聞こえ始めた。今日の授業がすべて終了したことに、どこか浮き足立っているような空気が感じられた。  織部はコーヒーを飲みながら窓の外に顔を向ける。白積は相手に気取られないよう、そっと織部の端整な横顔を見つめていた。 「俺たちがいた頃と全然変わらないな。今でも非常階段が溜まり場になってるのか?」 「さぁ、どうでしょう……、俺はここか職員室くらいにしか行きませんから」  白積と織部は、この高校の卒業生だった。白積が二年になった6月、全国的に梅雨入りが宣言され、大岩町も連日雨が続いていた。白積の両親が交通事故で他界してしまったのはその時だ。
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