第1章

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 陶芸家の父と、経理をしていた母。二人は事故の数ヶ月前から、ある問題を抱えていた。子供の前ではあまり話さなかったが、白積は幼いながらに理解していた。古くから地元にある葬儀社から、葬儀で使用する陶器製作を専属で頼めないかと話を持ちかけられていたのだが、両親は断り続けていた。その葬儀屋は、暴力団・大岩組と裏で繋がっていると有名で、白積の父親は関わりを持つことを恐れたのだ。  私が独身なら食っていくためだと割り切ったかもしれないが、家族を巻き添えにはしたくないんだ。父が母にそう語っているのを、白積は聞いたことがあった。  ある日の夜九時をすぎた頃、地面を叩きつける大雨が降っていた。一時間ほどで帰ってくるから、と両親は息子に告げて車で外出をした。きっと葬儀社と話し合うためなのだろう。  両親の車は遮断機が降りた踏み切りの中で留まり、貨物列車に轢かれて粉々になった。  現場検証をした警察から、粉砕された車と遺体に混じって、タイピングされた遺書が見つかったと告げられた。現場には踏み切り手前から中へ続くタイヤ痕があったが、遺書を持っていたことにより自殺として処理された。  自殺ではないと、白積には確信があった。仮に回避できない重大な問題を抱えていたとしても、ひとり息子を置いて自分たちだけ自殺をして問題から逃げるような、そんな無責任な親ではない。葬儀社と繋がりのある暴力団・大岩組に殺されたのだ。専属契約を結ばず拒み続けたせいだ。  高校生の白積には受け止め切れない出来事だった。両親と交流のあった陶芸家組合の者たちが、手分けして通夜や告別式の用意をしてくれた。白積はただ指示されるまま行動しただけだった。十二年経った今でも、当時のことはよく覚えていない。唯一残っている記憶は、ガラス張りの火葬場で二つの棺桶が焼却炉に吸い込まれていく風景だけだ。
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