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事故から約一年後、卒業を間近に控えた白積の元に、織部から相談が持ち掛けられた。地元の国立大学に進学した織部は、会社役員をしている父の友人が陶器をオーダーメイドで作ってくれる窯元を探している、と白積に話した。その友人というのは陶器の卸売業を開業しており、需要に見合う商品を仕入れることができず困っているのだという。求めているのは小さな蓋つきの壷で、数年先まで定期的に頼みたいということだった。
友達で窯元のやつがいるって言っちゃったんだよ、いいだろう? 織部に甘えたように言われて、白積はその卸業者まで話を聞きに行った。3ヶ月に一度という定期的な収入は、高校卒業後の身の振り方に迷っていた白積には願ってもない話だった。ろくろを回すのは得意だし、30や40口の壷なら無理な量でもない。
こうして、陶器卸売り・式島社との取引が開始された。先方は白積の繊細な仕事に満足してくれている様子だった。
陶芸家になれてよかったな、と織部も喜んでくれた。父の友人と後輩を橋渡しした責任を感じているのか、織部は時折り白積の自宅工房に顔を出した。
白積は、やっと生きていく意味のようなものを得た気がした。学校に通うという義務がなくなれば、自分はどうすればいいのかわからずにいた。しかしこれからは、依頼を受けた仕事を無事納品するという新たな義務を与えられた。心配をして面倒をみてくれた織部の顔に泥を塗るわけにはいかない。そのために毎日を生きていかなければならない。
高校を卒業した日の夜、織部が遊びに来てくれた。白積はもう気づいていた。自分が抱いている気持ちは、先輩に対する憧れや友情ではない。特別で親密でありたいという愛情なのだと。
それに気づくと同時に、白積は隠し通すことを選んだ。織部は自分のことを気の合う後輩だと思っている。だからこうしてひとりの白積を気にかけてくれる。今のこの幸せな関係を、自分の欲深さで壊したくはなかった。織部に気づかれたら、白積は再びひとりぼっちになるのだから。
「その手、まだ治らないのか?」
窓の外から室内に向き直った織部は、コーヒーカップを持った右手で白積の手を指差した。テーブルの上に置いた両手は、相変わらず綿の手袋をはめている。白積は右手だけを脱いで、手の平や甲を見せた。
「少しずつ治ってきてるんですが、完治はまだまだ先みたいです」
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