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水泡は徐々に治まり、固まった皮が古くなってぽろぽろと剥がれている。赤い湿疹もちらほらあって、白積は隠すように再び手袋をはめた。
「もし仕事がきついなら、俺から式島社の社長に話してやろうか?」
「いえ、式島さんの仕事はまだ易しい方ですよ。あんなに感謝してくれるところもめずらしいです」
「でも、ストレスが原因だって医者に言われたんだろう?」
織部は整った眉を心配そうに歪ませている。空になったコーヒーカップをテーブルに置き、白積の隣りの椅子に腰掛けた。
「お前はなんでも抱え込む性質だからな……。ストレス発散とかしてるか? 女と知り合うきっかけとかないのか?」
「はは……今はそれどころじゃないですよ。それに俺は、ろくろ回してるのがストレス発散みたいなものだから」
白積は困ったように笑う。本当のところ、織部相手にここ数年嘘をつき続けていることで胸が痛んでいた。
「好きな事を仕事にできるのはいいことだけどさ、だからって頑張りすぎるなよ」
「大丈夫ですよ、最近は不定期の仕事もちょくちょくあるし、教師の仕事も生徒と触れ合えてわりと気分転換になっています」
「大丈夫そうに見えないから言ってんだよ」
手袋をした両手から顔を上げたとき、織部がこちらを少し怒ったような目で見つめていた。白積は咄嗟に目を逸らす。暗く小さな個室で彼と見つめあってしまうと、おかしなことを想像してしまいそうになる。そんなことが知られたら、気持ち悪がられるに決まっている。
「こういう皮膚の疾患って、食生活がもろに出るらしいな。外食ばっかりじゃ駄目だぞ、家のこととかどうしてるんだ?」
「そのことなんですけど、男の家政夫を雇うことにしたんです。ちょうど、今日の午前中に面接したんですが……」
白積がそう話しながら顔を上げたとき、織部の目が一変していた。心配して咎めるような目から、不快感を露わにするような目になっている。織部は感情のままにといった雰囲気で、テーブルの上で白積の手首を掴んでいた。白積は予想もしていなかった反応に、どうしていいかわからず困惑した。
「は…? お前が家政夫雇うとか初耳だぞ。なんで俺に相談とかないわけ?」
「すみません……」
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