第1章

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 壁際に三台のろくろが置かれ、立って腕を伸ばした高さに明かり取りの窓が横一面に並んでいた。その下には壁に取り付けた板が数段あり、細々とした道具や陶器の型、たらいやボウルが整理して置かれている。  工房の奥へ進むと、三度目のガラスの引き戸があり、奥の部屋は日が当たらず昼間でも薄暗くなっている。壁沿いにL字の洗面台が並び、所狭しと置かれた棚に素焼きした壷や皿が置かれていた。その棚の横を通り抜けると中庭に出るドアがあり、トタン屋根が自宅の勝手口まで続いている。中庭にはブロック塀と屋根に覆われたドーム型の窯があった。  白積は粘土の塊や、干している素焼きには触らないよう告げた。陶芸にまったく興味のない者でも直感的に触れてはいけないとわかるだろうが、黒巌がなにを考えているのかわからなかったので念押ししておいた。 「玄関は反対側にあるんですが、実はほとんど使っていないんです。黒巌さんも不便じゃなければこっちを使ってください」 「畏まりました」  白積は勝手口を開けながら、内心驚いたものの態度には出さなかった。かしこまりました、なんて言葉を実生活で、しかも肉声で聞いたのは生まれて初めてだった。当の黒巌は、緊張のあまり過剰に丁寧な言葉を使ってしまったという雰囲気は一切ない。むしろ普段から使っていて、つい癖で出てしまったといった口調だった。時給制のアルバイトが使う言葉とは思えないし、それが変だと感じている風でもない。この人なんなんだろう……後で履歴書を見直そう、白積はそう考えていたが、数分後にはもう忘れてしまっていた。  アルバイトを雇うというのは初めてだったので、白積は昨夜の内に恥ずかしくない程度にざっと掃除はしておいた。台所と風呂に隣接した洗面所を案内し、先ほど通り過ぎた中庭の窯の近くに物干し竿があることを説明した。 「なにか聞きたいこととかあれば……」  窯が見える縁側に立って、白積は斜め後方の大男を見上げた。黒巌は今にも欄間に頭をぶつけそうだった。 「入ってはいけない部屋はありませんか?」 「入っちゃいけない部屋……?」  低く静かな声をしている黒巌は、それが普通の口調なのか秘め事を囁いているのか判別が難しかった。白積は何故そんなことを聞くのか、いまいちわからず反復した。 「見られたくないものなど……」
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