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ドアを開けると、そこには大男が立っていた。白積は訳がわからず唖然としてしまう。頭が真っ白になって、ドアを開ける前に用意していた言葉はひとつ残らずどこかへ消え去ってしまった。後から振り返って言えることだが、その瞬間は頭が真っ白になっているという自覚すらなかった。
「あの、えっと……、黒巌、静さん……ですか?」
「はい」
その大男・黒巌静は、白積の態度に驚くことも不快感を示すこともなく、簡潔に応えてうなづいた。
決して小柄ではない白積が居心地悪い威圧感を受けるのは、黒巌の独特な風貌のせいだった。身長175センチの白積が、190センチ近い黒巌を目の前にしているのだから、随分と高いところから見下ろされている感覚がする。
肌は元々の体質なのか色黒で、長い黒髪をすべて後ろに流してひとつに結んでいる。黒いTシャツもブラックジーンズも細身に見えるが、筋肉の構造を体現するような逞しい体格のせいでそう見えるだけだった。きっと白積が同じものを着たら、隙間だらけのTシャツにだぼだぼのジーパンになるだろう。
その威圧的な身体は、人に見せるために鍛えたというよりは、実生活で自然と鍛え上げられたといった雰囲気があった。若い女性には一歩距離を置かれそうだが、男性なら誰でも一度は夢に見る剛猛な雄の身体つきだ。
工房の入り口で、ふたりはなにも言わないまま向かい合って立っていた。ドアを開けて迎えた白積はぼう然と相手を見上げ、約束の時間通りに訪問した黒巌は相手の次の言葉を待つしかなかった。
「それじゃ……どうぞ。そこへ座ってください」
我に返った白積は照れ隠しの咳払いをしながら、黒巌を工房の中へ招き入れた。黒巌は大きな身体を屈めるように、軽く会釈をして中に入る。その姿を見ながら白積は、どうやって不採用にしようか、と無意識に考えていた。
白積が家事全般を任せられるアルバイトを募集したのは、手湿疹を患ったせいだった。
窯元だった両親が他界し、すべてを引き継いだ白積は高校を卒業して『陶芸家』という職業に就いた。陶芸家と言っても個展を開くような芸術家タイプではなく、陶芸家組合を通して入って来た仕事を淡々とこなして生計を立てる職人タイプだった。
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