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「何?この貧乏臭い編みぐるみ。何か臭いわ、これ。」
私はお母さんが侮辱されたようで、怒りがこみ上げてきた。
「なーんか、編みぐるみって、気持ち悪いわよねえ。一目一目にあの女の怨念がこもってそうで。」
そうニヤニヤ笑いながら汚らしいものを持つように、うさぎの耳の部分だけをつまんで振り回した。
違う。その編みぐるみは、お母さんが私の誕生日に一目一目、愛情を込めて編んだものだ。
怨念など、こめているはずがない。この女は全て自分中心に世界が回ってると思ってる。
「クソババア!」
私は初めて酷い言葉で人を侮辱した。
新しいお母さんは、みるみる鬼の形相になって、私の髪の毛を掴み、2.3回ビンタした。
「捨ててきな。」
そう吐き捨てて、編みぐるみを私の足元に投げた。
「いや!」
逆らうと、今度はおなかを蹴られた。
「捨ててこないと、もっと酷い目に遭わすからね!お向かいにコンビニがあるだろ?そこのゴミ箱に捨ててきな。ここから見てるからね。捨てないと、どうなるか、わかってるだろうね!」
私は泣きながら、編みぐるみを拾った。
玄関を出ると、新しいお母さんが、二階の窓から、煙草を吸いながら、私の行動を見張っていた。
私は仕方なく、言われた通りに、泣きながら編みぐるみをコンビニのゴミ箱に捨てた。
すると、新しいお母さんは満足そうに笑った。
とうとうお母さんの思い出の全てが無くなった。
もちろんお母さんの写真なども全てゴミとして捨てられたから、家にはお母さんの思い出の品は何も無くなった。
ところが、あくる日、あの編みぐるみは戻ってきた。
私は酷く叩かれた。お前が拾ってきたんだろうと。
私は拾いに行った覚えは無い。
戻ってきた編みぐるみは酷いにおいがした。
何か、お魚が腐ったようなにおい。私が持っている時にはこんな臭いはしなかった。
怒り狂った新しいお母さんは、今度は自分の手でどこか私の知らないところへその編みぐるみを捨てに行ったようだ
あまりの悪臭に、家のゴミに混ぜておけなかったのだ。
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