編みぐるみ

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その夜、私は夜中に何かの気配に目が覚めた。 お父さんとお母さんの部屋から、何か強烈な悪臭がするのだ。 なに?この変な臭い。それは、昼間かいだ、あの返ってきた編みぐるみと同じ臭いだった。 まさか。あれは、新しいお母さんが自分の手でどこか遠くに捨てに行ったはず。 私は恐る恐る、寝室を覗く。 すると、ベッドサイドのテーブルにそれは在った。 捨てたはずの小さなうさぎの編みぐるみ。 私が見つめていると、その編みぐるみがムクリと体を起こした。 嘘!お人形が動いた。 そして、何事かうなされている新しいお母さんのほうに這い寄ると、口を無理やりにこじ開けて自らの体を押し込んでいった。 ぐりぐりと臭いにおいを撒き散らしながら、口の中に押し込まれていく編みぐるみ。 それでも、新しいお母さんは目覚めない。とうとう、すっぽりと口の中へ入って行き、消えてしまった。 私は恐ろしくなって、自分の部屋に駆け込んだ。 今見たのは、きっと夢よ。 そう自分に思い込ませて頭から布団をすっぽり被ることしかできなかった。 次の日の朝、新しいお母さんは急にお腹が痛いと言ってのたうちまわり、お父さんが救急車を呼んだ。 新しいお母さんは緊急手術を余儀なくされた。 私は昨日の編みぐるみの話をお父さんにしようとしたが、とうてい信じてもらえないと思って黙っていた。 そして、新しいお母さんのお腹の中から、人間の指が摘出された。 胃の壁面に、薄いピンクのマニキュアをした女性と思われる指が食い込んでいたそうだ。 数日後、近所の山で女性の腐乱した首吊り死体が見つかった。 その死体は、左手の薬指が欠損していた。 新しいお母さんの胃から出てきたのも薬指で、その指には結婚指輪が嵌められていた。 新しいお母さんは、ほどなくして、お父さんと離婚した。
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