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「待ってください。誰も帰りたいだなんて、言ってないじゃないですか」
リュードは頑なな面持ちで立ち止まると、自分の腕を掴んでいた少女の手を取り、そっと引き剥がした。
「……僕だって、ここがヤバい所だってのは分かります。今だって、逃げ出したいくらいすごく恐いし……。でも、僕が言いたいのはそうじゃなくて……」
リュードは言い淀むと、やがて、いつものようにへらりと笑みを浮かべた。
「……とにかく、僕も皆さんと一緒に行きます。時間まではまだ充分ありそうですしね」
「……そこまで言うのなら、私はこれ以上何も言いません」
睫毛が影を作る目元を伏せ、少女は緩く首を振った。
「特に今は、この特殊な状況……うまく人混みに紛れることができれば……」
「あの……僕達、フェリ様を捜しているんです。どこにいるかご存じですか?」
リュードの問い掛けに、少女は困ったように唇を噛んだ。
「いいえ。この建物の構造はとても複雑なんです。それだけじゃない。彼女が会いたいと望まなければ、その部屋に辿り着くことさえできないでしょう」
「ちっ、やはり結界が張ってあると見て間違いないようだな」
「シーちゃん。この期に及んで、建物を破壊すれば会う気になるだろうとか、そーいう妙な考えに行き着くのは止めてね」
シダーの右手が妙な動きをしだしたのを見て、ジェイは苦笑しながらその肩を叩いた。
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