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何で、どうやって、自分はここに来たんだろう。
思い出そうとするたび、隣の紳士が語りかけてくる。
「…………うう、なんで、僕……」
「決まっているじゃないですか、リサ様の誕生日パーティーですよ」
「…………そう、ですよね……」
紳士は革の仮面の下から、じっとリュードの顔を見上げている。
リュードが口を開けば、すぐに紳士の会話が割り込んできて、うまく喋り続ける事などできない。
「…………リサ様の……ううっ……」
頭の中が紳士の声で一杯になり、リュードは思わず両手でこめかみを押さえた。
記憶が押さえ込まれる。
だんだん何も考えられなくなって……
「…………おかしいな」
頭を振り、リュードはホールを見渡した。
隣で笑みを作る紳士に笑い掛けると、ぎこちなく頭を掻く。
「パーティー、ずっと楽しみにしてたはずなのに、忘れちゃってました」
「ははは、いや、思い出せて何よりです。さあ、飲み直しましょう。といっても、未成年はジュースですがね」
「相変わらず固いなぁ。ちょっとくらいいいじゃないですかー」
紳士が差し出したジュースを受け取ると、リュードは浅く頭を下げた。
腹の中で燻っていたわだかまりは、すっかり成りを潜めていた。
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