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場所は変わり、ホール左奥の通路。
本来ならばジェイひとりが担当するその通路を歩いているのは、ジェイとリーガルだった。
薄暗いオレンジ色の蝋燭が照らす中、まるで散歩でもするかのように、2人の足取りは緩やかだった。
「食堂を通り越して、その先が図書室……ここの通路も外れかもしれませんね」
客室があった通路よりは人の気配があるものの、屋敷の主人が通るような通路の作りではない。
諦め半ばの溜め息をつくリーガルを傍目に、ジェイは別段気にする様子もなく、いつもの笑みを浮かべる。
「ま、急ぐ事も無いでしょ。敵が居るわけでもないし。それよか、なんか嗅いだことのある匂いなんだよなぁ……」
すんすんと鼻を鳴らし、ジェイは不思議そうに首を傾げた。
人一倍嗅覚に優れた彼のこと、自分の知らない何かを感じ取っているのだろうと、リーガルはなるべくジェイの邪魔にならないよう口を閉ざす。
しんと静まり返る通路の先、通路の左手に新たな部屋の明かりが見えて、ジェイは「おっ」と声をあげた。
「あの部屋に手懸かりが有ればいいですが」
ドアの開け放たれたその室内を覗き込み、期待の込められたリーガルの眼差しはたちまち陰りを帯びる。
煌々と壁面ランプが照らすその部屋は、城の宝物庫だった。
銘のある剣や鎧、木箱から溢れんばかりに詰め込まれた宝飾品の類い。
それらが縦長の部屋一杯に並べられ、彼らを迎えた。
「へぇ、随分と贅沢な趣味をお持ちで」
サファイアのナイト、エメラルドのルーク、ダイヤモンドがちりばめられた王冠を被るキング。
宝石で装飾されたクリスタルのチェスセットが足元に転がっているのを一瞥して、ジェイがやや皮肉混じりに言った。
「ここにも階段などはありませんね。ジェイ、貴方は分かりますか?」
「いや。妙な匂いとかは無いぜ」
「やはり一緒に行動して正解でしたね。私一人では、魔法が掛けられていたら気がつきませんから」
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