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「傘なんか意味ないだろうに……は?」
窓から毛根の八割が死滅しているオジさんが、必死に飛ばされまいと傘を握り締めながら歩いているのが見えた。
次の瞬間、突風により吹っ飛ばされたのだ。
いや、この際オジさんのことなんかどうでもいい。問題はオジさんが手にしていた傘だ。
暴風により傘の生地も骨も千切り取れたそれは、一本の大きな矢だった。
それが物理法則を完全に無視し、一直線にこちらに向かって飛んでくる。その間、コンマ5秒掛からなかった。
気付いた時にはガラスをぶち破り、傘の石突が俺の腹部を突き破っていた。
その現象に頭が追っ付かず、声一つ上げずに俺は膝を付いていた。痛いと感じるよりも先に、熱い固まりが喉にせりあがって吐き出してしまった。
「あっか……」
床にぶち撒けられた自分の血を見て間抜けにもそんな言葉が口をついて出た。
俺の一張羅のパジャマも血塗れだ。
部屋の外から廊下を駆け抜ける足音、ついで俺の名前を呼ぶ母親の声が聞こえた。
ガチャガチャとドアノブを回す音が響くが、ドアは開きはしない。だってそのドアに鍵を取り付けたのは俺なんだからな。
あーあ、柄にもないことして……。
ドアに体当たりをしているのか、幾度もデカイ音を立てながら揺れるドアを虚ろな目で眺めていると、視界が暗くなっていった。
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