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薄暗い港の倉庫に、靴音と息遣いだけが響く。
「ハァ……ハァ……ッ」
壁に追い詰められた男が、力が抜けるようにして地面に座り込む。
「もう逃げられません。鬼ごっこは終わりです」
男の目に映ってる自分の目は、きっと冷めた目をしているだろう。
「裏の世界で、堂々と麻薬を顧客に売りつけて、このまま生きていけると思ってますか?」
「わ、悪かったッ!もうしない!だから、許してくれッ」
男が許してくれと、私の足にへばりつく。
「表には表の、裏には裏のルールがあるんです。そして違法行為は問答無用で裁く。私たち、ジャッジメントがいるかぎり、裏の掟は絶対」
スーツの腰につけていた、仕事道具である相棒の日本刀「暁」をさやから抜く。
「ヒィッ!!」
へばりついていた男が途端に、後ずさる。
「罪は、これから生きて償ってくださいね」
「……」
裏で違法を犯したものは、もう二度と、裏の社会では生きていけない。
永久追放。
「お疲れ様でした」
振りかぶると同時に、男の断末魔のような叫びが倉庫内に響きわたった。
……………
……
…
「望月です。任務完了しました。回収お願いします」
そう電話をかけ、切った後、倒れている男を見る。
死んではいない。
少し、ほんの少し痛めつけただけ。
「馬鹿な人。手を汚さなければ、これからも普通に暮らせたはずなのに」
そうつぶやくが、反応はない。
そりゃそうか。
じき、回収班がくる。
逃げないように、相手を拘束しておく。
スーツを整えて、暁をもって潮の匂いがする倉庫の外にでる。
暗い海の奥はネオンに包まれた工場が見える。
空を見れば、満月。
その月は、何故か赤い。
ずっとこうだ。
私の目には、月が赤く見える。
いつからだっけな。
こんな風に見えるようになったのは……。
さぁ、戻ろう。
遠くから車が近づく音が聞こえる。
私も、あの犯人も、もう元の場所には戻れない。
賽は、
投げられた。
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