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「ーーさてと、じゃあ小説でも書きますか」
財布の中は空っぽだった。
二年前に病気で会社を首になるまでは、
こんなはずじゃなかったのに。
「うむ、そうじゃの、過去を悔やんでもしょうがないからの」
おれと平丸は申し合わせたように
うんうむと首を振りながら和室に戻った。
六畳の畳が夕日に照らされて、ほのかに輝いていた。なつかしい。セミの鳴く声、平丸が持ち込んだであろう数学の本と文庫版の宮沢賢治の銀河鉄道の夜がどこかミスマッチだった。
「ーーにしても、あついな」
「だからペットボトルのコーラを買ってこいとあれほど言ったのじゃ、おぬしは」
平丸はそう言いかけて口を止める、小さなカラダがちょこんと和室の入口に立ち止まったかと思うとその背中がおれの腹にぶつかった。コナンか貴様は、顔に手を当てて名探偵よろしく悩んでいる。超かわいい。身体は子供、頭脳は大人なんて言うと語弊が生まれるかもしれないが、物想い気に悩む姿は百合のように清楚だったのだ。そろそろ誤解のないよう自分に言い聞かせよう。マジでもっと自分にプライドを持って早く社会復帰をするためにも。
決しておれはロリコンではないのだっ!!
「ねぇ、おにーちゃんコーラ買ってきてよー」
もうロリコンでかまいません、
破壊力ばつぐんすぎすふ!!
上目遣いでこちらを見つめる平丸、女子高生だというのに彼氏はいないのだろうか? まぁいないのだろう。
こんな公民館で無料で小説のノウハウをレクチャーしているくらいなのだからな。
「お、おう、買ってくるわ….普通のコーラでいいのか?」「うむ、はやくせぃ、あ、あとそうた、ひとつ課題。出しておくぞお兄ちゃん」 「なんだ?」
「わしの外見を世の男子高校生たちが読んだら興奮して夜も眠れぬような文章を、あとで原稿用紙二枚分くらいに書いてもらうからのぉ、きっちり考えておくのじゃよ?」
そう言って短髪青髪の美少女は
夕焼けを背中にしておれに恥ずかしそうに小さく笑っていた。どうして、おれはそんなことで嬉しいのか。どうしてそんなに平丸が嬉しそうなのかたるんだ生活をしているおれには全然わかんなかった。
ただ、
夕焼けがきれいだな
って、そう思った。
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