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「ふっ、やれやれだまったく」
意味ありげにまるで、ベテランの白髪交じりの刑事が、「いやな世の中になったものだ」と夕焼けをバックに哀愁を漂わせ、犯人の無垢な犯罪動機に同情をしながら、護送されるパトカーを見守る眼差しでおれは公民館の玄関へとたどり着いた。
「おや、もうおかえりかい?」
フラダンスを講師しているダンサァーのおばさ、レディーがハワイアンな格好でおれに出入り口で奇異の眼差しを向けているが、おれは手のひらを中空にあげて、「企業秘密ですので」と平丸少女率いる文藝教室(2名)をそれとなく宣伝しておいた。
「あやしいことしちゃだめだよ?」
ーー背中にゾクリト戦慄ガ走ルーー
ちくしょう。やはりそうだ。若い男女がひとつの狭い部屋で会合などしていようものなら、この手の罪のない善良な市民はすぐに、やれ不純異性交遊だ。密室で男女が乳繰りあってるなどと勝手に豊かな妄想を脳内で展開してはやし立てるのだ。
「ふっ」
ーー断じて違う、そんなのではない。
おれは、おれには崇高で偉大な凡人には理解の出来ない途方もない孤高な文学的目標があって、彼女の講義を週3で受けに来ているのだ!
それに、そもそも彼女には乳繰り合うような豊かなものはない。ゆえにゆえにゆえに。
「なにを言ってるんですか、今からコーラを買いに行くだけですよ。あはは、そんな目で見ないでください……」
なぜか敬語になる。
玄関の側にある靴を保管する場所から
サラリーマン時代から愛用している黒光りな革靴を履きながら、おれははやく就職しようと思った。
ガチャリとドアを開ける。生温い風が肌を伝う。
「お兄ちゃん!!」
二階から聞き覚えのある声がした。
おい、せめて本名で呼びなさい。ほら、なんか怪しいじゃない 足止めするようにパタタタタ、パタタタタと階段を降りて、息を切らしながら「やっぱりわたしも一緒に買いに行く」とおれの隣に駆け寄った。
天才だ、それ確信犯的な嫌がらせじゃない?
まるでシスコンをこじらした歪んだ性格ゆえに社会に溶け込まないニートみたいじゃないか!
ロリシス絶対主義者みたいだからやめてください。とても恥ずかしいです。
「ふふ、本当の兄妹みたいねぇー、気をつけて行くのよ、じゃ、またね」
「はーい」
ハツラツな声、 平和だ。
今日も日本はとても健やかに回ってます。
「おい、なにを見ておる?」
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