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「ねえねえ、わたしにも見せてよ、あれ」
彼女は立ち上がるなり、夢中で天体望遠鏡に走っていった。乾いた砂に、彼女の軌跡が刻まれていく。後方に待機していた二人の女子も天体望遠鏡にまで歩んでいって、三人のもつれ合うようなはしゃぎ声が辺りに響き始めた。僕はゆっくりと腰を上げ、しばらく海辺に放置していた愛機へと向かった。
「これ、本当に、宇治くんが作ったものなの?」
クラスメートのうちの、背の高い女子――岸川るりが言った。テンションがいつもに見かける彼女のそれではない。
「まあ、そうだけれども……」
初めての一機ではなかった。三作目だ。
今回の天体望遠鏡にいたっては、望遠鏡を支える三脚架頭部のターンテーブルからフォークアームまですべて自分で制作していた。パーツだけは既製品を買い、それを取り付ける方式を採用していたのだけど、どんどん自作欲が高まっていく内に、全部自分で作ってしまったらどうか、と思ったのだ。もちろん、自作の度合いが増せば、制作時間もコストも倍増しになる。それだけにどうしても各部に妙なこだわりが出てしまうのだった。
岸川さんはすごーい、と甲高い声を上げ、きゃあきゃあもう一人の仲間――佐倉仁美を巻き込んで、何度も僕の望遠鏡のアイピースに目をあてがう。代わる代わる拡大された月を眺めるその様は、いかにも無邪気だ。きっと、これまでに天体望遠鏡で月を見るようなことがなかったのだろう。美郷はというとこの時、誇らしそうな顔をしたまま二人の様子を眺めていた。ふと、僕と目が合う。
「本当に天体が好きなんだね、宇治くん」
「……うん、まあ、そうだよ」
少し照れを感じたせいか、なんとなくうつむいての返答になった。その他、天文趣味がインドア系でちょっと根暗っぽいなんて思ったことも少しは頭にあったかもしれない。
過去にからかわれ、それこそトラウマになってしまった出来事があった。だからこそ、僕は自分の趣味や嗜好を人にさらけ出すことについて抵抗があった。
「……どうしたの?」
と、彼女が不思議そうに顔をのぞき込んできた。近づいた顔に思わずぎょっとする。
「いや、なんでもない」
「……そう?」
彼女は首を引っ込めると、またいつもの快活な調子を取り戻した。
「この調子よ」
と、彼女は言う。
「え?」
目の前には、握りこぶしを固めた美郷の姿がある。

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