0人が本棚に入れています
本棚に追加
人は【それ】の存在に薄々気づいていた。
しかし、根拠もなければ物的証拠もない。
【それ】は人々が作り上げた心の拠り所で、架空の存在とされていた。
今日も変わらず、東から朝陽は昇った。
だが、まだ気温は低いまま。口から吐いた息が白い。
男はいつもと同じように職場へ向かうため、早朝の駅のホームでスマートフォンの画面と向かい合い、ネットに掲載されているコラムを読みながら電車を待っていた。
≪人は何故産まれ、何故死ぬのだろうか……≫
人類最大の謎。誰しも一度は同じ疑問を抱いた事があるのではないだろうか?
そんな語り口で書かれているコラム。
男も時々同じような事を考えることがあり、画面を見つめる瞳に熱が入る。
田舎の小さな駅に続々と人が増えていく。職場方面へ向かう電車は僅か1時間に3本。今待っている電車を逃すと、次に来るのは20分後。それでは会社に間に合わなくなってしまう。
そのため、この時間の電車を利用する人は多く、小さな駅のホームは人で溢れていた。
この光景に、≪人は何故産まれ、何故死ぬのだろうかか……≫と男はふと考える。たくさんの命が一度に集まるこの場所で。
そんな中、聞きなれた音とアナウンスがホームに響く。
もうすぐ電車がやって来るようだ。
ガタン……ゴトン……
レールを走る音と共に電車のヘッドライトが近付いてくる。
見慣れた光景、時間通り来た電車。
この次に起こる出来事を予測した者は果たして居ただろうか……。
「"最悪だ……この世の終わりだ……"」
「……え?」
見知らぬ少年が男の隣に立ち、笑みを向けていた。
歳は10歳ほどだろうか。癖毛の茶色の髪で黒のスーツを身に纏っている。
先程まで隣には誰も居なかったのに……と不思議がる男に少年は続けた。
「あと30秒後、オジサンはそう言うよ」
最初のコメントを投稿しよう!