第1章

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 少し、どころかかなり引かれたかもしれない。感情的になり過ぎて僕は自分を見失っていた。 「ごめん、めちゃくちゃ言って」  今更言っても仕方ないが言わずにはいられなかった。 「ううん。ねぇ、田中君。その傷ってもしかして、大樹君がつけたの?」  意外と彼女は冷静だった。  そう問われて僕はかぶりを振った。 「周りの奴らだよ、やったのは。余計な御世話だったんだけど飯塚に君の元へ行けって言ったけど聞く耳を持ってもらえなかったから僕の方から仕掛けたら周りの奴らに返り討ちにされたって感じで。実はさ、この待ち合わせ場所も飯塚から聞いたんだ」  僕がボロボロになって地面を転がっている時、去り際に『そんだけ好きならお前があいつのところに行ってやれ』  そしてこの場所を吐き捨てるように言ったのだ。まるで彼女の相手をするのが面倒だから、僕に押し付けたかのような適当さで。 「そっか。でも田中君、何でそんなにしてくれたの? 大樹君とはいつもクラスで一緒にいて、話をしてたじゃない。何で喧嘩したの?」 「君が好きだから。だから、君を粗末にするあいつが狂おしいほど許せなかった。はっきり言って殺してやりたい気持ちすら湧く」  驚くほど素直に自分の感情を全て曝け出した僕。しかし思いの外冷静だった。 羞恥も何もない。彼女の前では本心であり続けたかった。  彼女は一瞬目を丸くしたかと思えば、伏目がちに僕から目を逸らした。  僕の気持ちは、やはり片想いのまま。  告白したって、やっぱり君はあいつの事が好きなのだろう。  でも好きという気持ちは周りに否定されてお終いになる程脆くない。むしろそうでなくちゃならない。  もし僕と彼女が付き合っていたとして、彼女が友達に『あいつは止めとけ』と言われてそれで熱が冷めるようじゃ困る。  不意に。  彼女の方から着信音が鳴る。 「ちょっとごめん」  一つ断ってから彼女はポケットを弄り携帯を取り出した。そして少しの間画面を見やるとそっと、携帯をしまう。 「大樹君からだった。何かね『今日は用事あるから行けない』ってさ。特別な日はいつもこうなの。誕生日とかクリスマスとか、」  バレンタインデーとか。  最後の一言はひどく小さく少し掠れて聞こえた。
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