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「本当は分かってるよ。大樹君が私を一番に想ってくれてないことくらい。でも、好きだもん。いつかはって、思っても仕方ないでしょ?」
まるで自分に言い訳するように彼女は言った。彼女は本当に一途だ。それは誇るべきで、彼女の良いところで。
でも僕は、彼女からそれを奪おうとしている。
好きという気持ちは諦められるわけないんだ。
僕も彼女も好きを止められない。
ずっと片想い。
でもいつかは。
「ねぇ」
もうこれ以上話を続けても仕方ない。
僕は話題を変える。
「そのチョコレート僕が食べちゃダメ?」
好きという気持ちは諦めきれないけれど、だからこそ彼女には諦めてもらう。
その為の第一歩を踏み出す。
あいつのチョコレートを僕が奪ってやる。
そしていつかは稔さんの心も。
「うん、いいよ」
彼女は躊躇ったようにラッピングされた小箱を見つめて逡巡したが、快く頷いた。
彼女から箱を受け取り、僕はラッピングを丁寧に剥がし、小箱の蓋を開けると中には小さなハート型のチョコレートがいくつもあった。
本当に美味しそうだ。
これが僕のために作られたチョコレートならもっとその味は格別だったことだろう。
「いただきます」
「どうぞ」
僕の声に彼女は微笑して受け答えする。
打てば響くような彼女の返しに僕はつい、嬉しくなる。
パクリ。
一口、チョコレートを頬張ると少しビターでほろ苦かった。
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