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「あの時…
気が付いたら白い狼がいたわ。
でも、彼は怯えるあたしに何もして来なかった。
どちらかというと、守っていたという方が正しいくらいに。」
1度言葉を区切りこちらを見るアリス
「なのに、2人はあの狼に対して武器を構えた。
それはどうしてなのか。聞いても良いかな。」
彼女の真っ直ぐな目に逸らす事は叶わない。
どう答えるべきか。口を噤んだ。
敵でもなければ味方でもない。
そういう位置に彼はいる。
武器を構えたのは、分からないから…
「……白い獣は新種の魔物。
素性も知れない上に絶大な魔力を持っている。
そして何より 目的が分からない以上、野放しには出来ないんだ。
何かあってからじゃ遅いからね。」
何処か哀しげな表情を浮かべるアリス
「新種……?そう…
聞きたい事は沢山あるけど、後はリルが起きたらにするね。」
だが、すぐにその表情は消え、何も無かったかのように言葉を紡いだ。
「…分かった」
リルが起きてから聞きたい事とはおそらく帝についてだろう
いつか言わなければならない日がやって来るとは思っていた。
だが、こんなにも早くその時が来ようとは…
浅はかだった自分の行動に悔いるしか無かった。
しばらく経ち、先にセルゲイが目を覚ます。
「……此処は…?」
「おはよう。
此処は俺の部屋だよ。何処まで覚えてる?」
「……ルオン?エインにアリスも……
またか……。最近多いんだ。
気が付けば見慣れない場所にいる事が。
昨夜 眠りについてからの記憶がない……」
彼の言葉にほっとした。
ザイレが動いていた時の事を覚えていないという事に。
アリスを知っているという事は、舞の時にいたのは本当のセルゲイだったのだろう
「そっか。順を追って説明するよ」
窓に視線を移すと、もう陽は沈みかけていた。
簡潔に事情を説明する。
「……迷惑を掛けた。すまない」
自らを責め、謝罪を口にするセルゲイ
彼の意志ではないものの、そう簡単に割り切れるものでは無い…
「……いや、俺がもっと早く気付くべきだったんだ」
様子がおかしい事は知っていたというのに、理由を突き止めようとはしなかった。
今回の事態は俺の甘さが原因である。
各々が言葉を発する事は無く、沈黙が続いた
けれど、いつまでも悔いてはいれない。
魔人は必ず、また何かを仕掛けて来るだろう
彼らの願いの為に…
その前に手を打たなければ…
気持ちは焦るばかりだった。
______end
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