どすこい!

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風が吹いたら飛んでいきそうな、 といっても大げさではない古い一戸建て。 鍋田力美は、ここで産まれ育ち もうすぐ23才を向かえようとしている。 力美、それって名前か?どう読むんだ?そう思われた方も多いだろう。 これは名前であり、「りきみ」と読む。 名前の由来は話せば長くなるのだが……。 力美を知る上でかかせないことでもあるので、追い追いお伝えしていきたいと考えている。 「幸せ~!やっぱおしゃれな食べ物は テンション上がるしおいしいし、 女子力アップするー」 古い一戸建ての畳部屋。 20畳はある大きな部屋だ。 家は古いが、どの部屋も広い。 が、造りは昔ながらの家。 今、力美が言った「おしゃれ」感は どこをどう見回しても、 鍋田家にはひとかけらも転がっていない。 「なにがおしゃれだよ。テングだよ。 女子力だよ。 バカバカしいこと朝からいってんじゃないよ」 力美の母である温子は むっとしながらもお碗の中の 餅やら鶏肉やらを ものすごい早さでたいらげている。 「ちょっと、バカじゃないの? テングなんか私、一言も言ってないけど。 テンションっていったの。 カタカナに弱いなんてマジでヤバイんだけど」 力美はそう言いながら、 クロワッサンドーナツに手を伸ばした。 流行りの店まで家から二時間かけ、 五時間並んでゲットしたものだ。 お一人様十個までだったので、 もちろん十個きっちり買い、その場で三つ。 家に帰って三つをたいらげた。 その残り四つのうち、 皿にはもう一つしか残っていない。 「あんた、買ってきて一つもくれないなんて、 ほんとケチ」 「食べたきゃ自分で買ってくれば? 私、これ買うのに九時間以上はつかってるんだから。 楽して食べようなんて思わないでよね」 力美はクロワッサンドーナツまるごとを、 一口で平らげ口をもぐもぐさせている。 力美とは真逆に、温子の顔は一気に強ばった。 力美を見る目付きが半端なく怖い。 「は?楽して食べてんのは誰よ? このくそ忙しいのに家の手伝いもしないで。 あんた、なんのおかげでごはん食べてるか、 わかってんの? ばさばさパンくずが落ちるもんばっかり 食べてる暇あったら、ちょっとは手伝いな」 一気にまくしたてた温子は、 お碗の汁をずずずーっと一気に飲み干した。 力美は、温子がおいしそうに 食べる"それ"を全力で睨み付けた。 "それ"というのは……
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