どすこい!

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「そんなもん毎日食べて、 お母さんバカじゃないの?」 力美は睨み付けた"それ"を 指差し大きなため息をついた。 「あんた、よく言ったわね。 これのおかげで、あんたはここまで でっかくなれたんだ。なのに その口のききかた。バチが当たるね」 お碗の最後の一滴まで、 いとおしそうに飲みながら 温子はそう言った。 「私はね、ちゃんこ鍋が嫌いなの、 ダーーイッキライなの!」 力美がさっきから睨み付けているのは、 土鍋から湯気たちのぼる、 『ちゃんこ鍋』だった。 「さっきからちゃんこ鍋に なんてこと言うんだよ。 ちゃんこ鍋に、ご先祖に謝んなさいよ」 温子は目の前のでっかい土鍋を 指差し、 部屋を囲うように飾られている、 ずらりと並ぶご先祖様の写真に 向かって頭を下げた。 それらの写真は15枚ほどある。 白黒写真から始まり、 途中から 画像が荒いカラー写真へと変わっていく。 「あんなふうになりたくないの!」 力美はとろ~りキャラメル入りロールケーキに かじりつきながら、 部屋中の写真をぐるりと指差した。 「あんた、ご先祖様を指差すなんて最低だよ」 「最低でけっこう。 私はこの人たちみたいにあんなこと しないから。もちろん、お母さんみたいにもね」 「あんた、あれがどんなに我が家を まもってくれてるかわかってんの? あんたが22才まで、 元気に何不自由なく生きてこられたのは ご先祖様と私が、 あれを堂々とやってきたからだよ」 温子は立ち上がり、 大きく深呼吸した。 両手をゆっくり上げはじめている。 「ちょ、ちょっと。 やらなくていいって。 見てもテンション下がるだけだから、 マジでみたくないんだけど」 「またテングかい。 あんたがなんて言おうが私はやるよ」 温子はもう一度ゆっくり両手をあげ、 ゆっくり目をつぶり、深呼吸をした。 息を吐ききると右足をゆっくり、 上げはじめた。 その右足は、どんどん高く上がっていく。 「ちょっと、やめてって いってんの聞こえないの!?」 怒った力美は温子の目の前に立つが、 温子は力美に見向きもしない。 それどころか、ゆっくり右足を下ろすと 今度は左足を同じようにゆっくりと 高く上げている。 「シコ踏むの、やめてよ! 不愉快なんだよ!」 力美はどなり声を上げるが、 温子は全く止めようとしない。 清々しい顔を浮かべ、 シコを踏んでいた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加