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俺とあの人――長野さんと会って話したのは、一度だけ。
話した内容と言えば……。
「タバコ、持ってる?」
「え? いや……無い、ですけど……」
「あ、そうなんだ。健康少年だな。けど実はオレ、持ってんだけどね……」
「タバコ、吸ってんですか? 身体に悪いから……止めた方が……」
「あぁ、そうだね」
って。
ただ、それだけ。
けど、それだけの会話だったのに、俺は……長野さんの姿が、目に焼き付いて離れなかった。
たまたまあの日、屋上でボーッとしてた俺。
その横に来て、さっきの質問した後、持参のタバコを持ち出して吸ってる、長野さん。
あの綺麗な横顔と、その時の情景が、頭にずっと……。
離れていかないでいる。
長野さんは、綺麗で繊細な顔をしてると……俺は思う。
強烈な印象を与える程ではないけど、雰囲気が独特だから、大概の奴は一発で覚えるんじゃないかと、思ってた。
けど、そう思ったのは、どうやら俺だけみたいだという事が、出会って一週間したある日、分かってしまった。
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