俺に言えるのはこれだけ

2/2
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 雪がちらつく今夜は一段と冷えた。  少し外にいるだけで鼻も耳も痛くなって、けれどその代価として、空気が澄んでいるから夜景は遠くまでクリアで、すでに見慣れた夜景でも思わずはっとしてしまう。  そんな夜景を前に、君は、小さな背中を時折震わせ、ずいぶん寒いだろうに、けれどもう一時間以上そこに腰かけ、動かない。  だれを待っているの? いつまで待っているの?  君の手にあるものを見てしまえば、その小さな背中に何度そう問いかけそうになったことだろう。  だけど俺はそうできない。ここにいるいまの俺は、君にこう言うしかないんだ――。 「あと2分で閉館時間で~す。階段下が入り口になりますので、2分の間にそこから出て下さ~い」 「そこを何とか!」 「ダメですよ~。さっきも言いましたけど、俺、単なるバイトなんで。閉館を遅らせる権限ないんで。はい、あと1分ちょっとになりました。急いで下さ~い」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!