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9回裏2アウト。ランナー1塁、2塁。1点差で負けている展開。
プロ野球ファンなら、誰でも手に汗握る場面だ。
所沢マーベラス球場に集まった満員の観客席の視線は、マーベラスの4番打者である、私、広中直斗ただ一人に注がれている。
かっ飛ばせ!ひっろなか!天まで飛ばせ、ホームラン!
ぎこちない足取りで左打席に向かった私は、困惑していた。
まさか、こんな場面で、よりによって俺にチャンスが回ってくるとは‥
こんなに、打席に立ちたく無いと思った事は野球人生で初めてだ。
それは、チャンスの場面で期待に応えられるかどうか不安だからでは無い。
むしろ、私はチャンスの場面でことごとくホームランを放つ姿から、チャンスゲッター直斗というあだ名でファンから呼ばれている。私が達成した、3打席連続満塁ホームランの記録は、未だにプロ野球記録として誰にも破られてはいないし、今後破られる事は無いだろう。
しかし、私はバッターボックスでバットを振る事すら、出来ないのである。
なぜなら、私は今、この球場の誰かに妻を人質に取られているのだから。
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