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ゴオッと灼熱に燃える炎よりも、ゴロゴロと低い音を立てて稲妻が走る緋色の夕空よりも、真っ赤に染まった視界に、青い瞳は零れ落ちんばかりに大きく見開かれて目の前の信じがたい光景を凝視する。
ぱちぱち、と飛んでくる火の粉が頬に掛かって熱い。先ほど転けて口に入った砂が気持ち悪い。燃え盛る火の音が煩い。だけど、それも気にならないほどに、視線はただ一点を食い入るように見つめる。視線の先には、赤。
「な、で……なん、で、どうし、て……っ」
か細くて震えるような声を無理やり絞り出して問うと、視線の先にいる、己とよく似た髪色の少年が、口を歪めて笑った。
「どうしてだと思う?」
聞いてるのはこっちだ、と少女は歯噛みした。そして目の前の彼の腕に刺さったままの彼女を再び見た。ぽたぽた、と鮮血が彼の腕を伝っては落ちていく。ざわり、と少女の胸が騒いだ。全身から血の気が引く。吐きそうで、気持ち悪い。気持ち悪い。
ぐ、と口を噛み締めた少女は、己の腕の中で息もせずに目を閉じた男の頭をぎゅうっと抱きしめた。そして、目の前の少年にもたれ掛かるようにして今し方命の灯を消した女の顔を見上げた。顔も、髪色も、少年と驚くほどよく似ている女はまるで眠っているかのように目を閉じている。
「とうさん、かあさん……」
どんな時でも太陽みたいに眩しい笑顔を浮かべ抱きしめてくれる父は、もういない。いつも優しい笑顔を浮かべ、「白雪」と名を呼んでくれる母は、もういない。たった今、殺されたのだ。目の前の少年──少女の敬愛する、いや、していた、兄の手によって。
これは何かの悪い夢だ、そう思いたいのに。燃え上がる炎が、かかる火の粉が、擦りむいた膝の痛みが、何より、腕の中でどんどん冷たくなっていく父の体温が幼い少女にこれは紛れもない現実だと教えてくれる。
「ど、して、とうさんを、かあさんをころしたの……こたえて、にいさん!!」
渇いてひりひりと痛む喉さえも無視してかすれた声で半ば叫ぶように問いかけると、兄は母の胸を貫いていた腕を抜いた。雷の音が、炎の音が煩いはずなのに、ずぶり、と生々しくて嫌な音がはっきりと聞こえた。
途端、おびただしい程の血が噴き出す。ぴ、と少し離れた少女の頬にかかり、その瞬間全身の毛が逆立った気がした。手が、いや、全身が震える。それが恐怖からくるものなのか憎悪からくるものかはわからない。
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