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「嬢ちゃん、大丈夫か?……って、おい」
近くにいた無精ひげの生えた男が少女に声をかけたが、俯きながらゆっくりと一歩、また一歩スリの男に歩いていく姿に困惑を見せた。
「おい嬢ちゃん、もう間に合わねえだろうよ。諦めな!子供が無茶しちゃいかん!」
「……ス」
ぐいと少女の肩を掴んだ瞬間、少女がぼそりと呟いた。男が「え?」と聞き返すと同時に辺りの温度が急激に下がった。ぎろ、と己を振り返る少女に男は咄嗟に手を離し、一歩下がった。
「──コロス」
耳を疑うような物騒な言葉が一言、少女の口から漏れた。
風もないのに白い外套の裾、金の刺繍が施された部分がふわりと揺れた。
ぱきり。
小枝を踏むような乾いた音が小さく響いた。刹那。
前方を駆けていた男が突如何かに足を取られ、派手に転んだ。
「いてぇ、何だ……っ、氷!?」
己の左足首までをがっちりと掴んでいたのは、時期には少し早い氷。不自然に凍った足に、男は目を見開き叫んだ。
「くそっ、一体どうなってんだ!」
なぜ氷が、と思いながらも慌てて足を引っ張ったり叩いたりするが、びくともしなかった。それが男を酷く取り乱させる。
「ちくしょう、何で……っ」
「人のもんは盗っちゃいけない……って習わなかった?」
ぱきぱき……ぱき。
ぐいぐいと足を引っ張る男の背後に、ゆっくりと歩いてきた少女はぴたりと止まざまに、冷たさが滲んだ声音で言った。直後、あきらかに不自然な音が立て続けに鳴る。
「冷た……って、なあああーーーーっっ!?」
少女を振り返ろうとした男は、不意に頭上から降ってきた何かがぴしっと頬に掛かり、反射的に空を見上げて──絶叫した。
なんと男の周りを囲むように鋭く尖った氷柱が幾数も浮いていた。と、それは勢いをつけて彼の体の周りにどすっどすっと重たい音を立てて突き刺さった。
「っぎゃーーーーーっっ!!!!」
少しでもずれていたら体に貫通していただろう氷柱に、二度目の悲鳴。
この光景には、男だけでなく周りにいた者全てが息を呑んだ。
「すみませっ、た、たすけ……っ」
寒さによるものなのかはたまた恐怖からなのか、ガチガチと歯を鳴らしながら小さな少女に命を乞う男。その様はかなり異質に見える。
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