第5話 予兆ナシ

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本日原稿待ちのゆい子はいったんデスクに荷物を置くとコーヒーごと接客ようのソファに移動した。 そうだこの人今日は原稿待ちで暇を持て余してるんだったわ。 こうなってくると長いんだよね。 「だってさぁ~。どう考えても先行き安泰のMelosをやめてここの編集部に異動するって変だよね。そこよかお金がいいからなんじゃないの~?」 お金第一主義のゆい子はもっともな理屈を展開してくる。 男の価値は給料で決まるらしいし。 私たち平編集はそれなりのサラリーしかもらってないけど。 編集長クラスは、けっこうもらってるんじゃないかと暇さえあれば噂してるんだけど。いかんせん本人に確認したわけじゃないから一向に推測の域をでない。 幸太郎編集長って。 時計とか靴とか身に着けるものが本格的な皮だったり小奇麗でおしゃれだし、金回りがよさそうなんだもん。いつも、ムスク系のいい香りを漂わせて。 体だってしっかり鍛えてしまってる。 こんがりと日焼けしてしっかり自分のコンディション常に整えてるし。 自分の売り方をほんとーにわかってるな~。 ゲイの人ってみんなそうなのかしら。 満員電車でゾンビみたいになってるサラリーマンとは身のこなしが違うというか。 ソファに餅のように横ずわりで半笑いのゆい子がだんだんどっかのレポーターみたいに見えてきた。 「で、鈴花。年下君とはどうなってるの?」 「いや、あれ以来パッタリ」 そう。一回ごはん食べたっきりメールもこない。 気に入られなかったのかな? ふっと携帯を見ると年上既婚者からのお誘いメール。 『仕事終わったら、長谷川(いきつけのお店)でご飯食べようぜ』 1週間がすごく久しぶりに感じる。やっぱりこの人からのメールってときめいちゃうんだな。 約束したわけじゃないんだけどだいたい毎週水曜日に会うのが私たちの暗黙のルール。平日の木曜日はムツオのお店が休みだからその前の日に会うのがここ何年かの定番パターン。 「既婚者?」 ゆい子言う。 「既婚者と会っててもほんっと時間無駄なだけだから。鈴花がそれでいいならいいけど。結婚したいきもちが1ミリでも芽生えたら即刻やめなさいよ」 と、日ごろから彼女に釘をさされている。 鋭い目をしたゆい子にメールがうれしいなんて言えない。 「デザイナーさんと打ち合わせに行ってきま~す」 私はボロがでないうちに外出した。
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