第10話 愛がなくちゃね

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「それなに?」 真顔のゆい子が私を現実に引き戻す。 ひたすら原稿の催促とあがってきた原稿のチェック。 今日はマイペースで仕事ができるのをいいことに、 私はよだれをたらしてきのうのことばかり考えていた。 これ? これはしおりの形をした愛です。 「しおりっていうのは本に挟むものでながめる物じゃないです」 わかってます。 しつこく食いつくゆい子にあらかたのあらすじを説明してうらやましがらせてみる。 「へぇ~。年下君やるじゃん」 そのお店に取材に行きたいというゆい子を制止してお昼の時間になった。 私は、「打ち合わせ客が来る」というゆい子を編集部において一人ご飯に出かけた。 天気のいい外ではランチを買おうという人々がお弁当の物色をしている。 今日ものどかだ。 今日は考え事をしたいときによくいくカフェに入った。 肉食な気分。から揚げと玄米の定食をたのむ。 健康志向のようなそうじゃないような。不思議なバランス。でも食べたいものを食べたい。 私は注文をすますと、きのうの妄想? いや。回想の続きをする。 帰り道。 蓮は、自然に私の手をとった。 手をつないで駅まで歩いた。 口から心臓が出るんじゃないかってほど ドキドキして手に汗をたくさんかいた。 緊張した私の手は冷たく固まって。 そんな私の手を包む蓮はとてもあたたかかった。 妻子あるムツオとのデートではそんなこと絶対にできないし。 人のものをうばっているという罪悪感からか。 無意識にこそこそしてしまう。 どこかうしろめたくて。2番手で。 でもそれがなぜか安心だった。 安全圏から飛び出してしまった怖さで緊張していたのかな。 普段感じたことのないドキドキ感。 食後のお茶を飲みほしながら、またもあのドキドキ感がよみがえる。 こうして回想していると。なんだか甘い物が飲みたくなってしまった。 会社に戻る前にラテのおいしいお店で抹茶ラテ買って戻ろう。 ここ千駄ヶ谷界隈ではランチ後の満足そうな人々が会社に戻っていく。 って、人の流れを見ていたら、なんか見たことがある顔が私を見ている。 「あれ? 鈴花?」 体ごと、正面を向いて懐かしそうに手をふっている…… ん? 誰だっけ?
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