第13話 急湍

2/3
前へ
/67ページ
次へ
ムツオから連絡がない日が続いた。 「あら。あんた振られたの?」っと。 私の曇った表情をよみとった編集長がつっこんでくる。 くすぶってないでうばっちゃいなさいよ。 それが嫌ならきっぱりあきらめるのね。 まぁ。ムツオの話になるたびにそう言われ続けてきた。 最初の頃は「あんたの武器は若さしかないんだからがんばんなさいよ」なんて励まされてたんだけど。 そのうち。 「その武器も使えなくなってきたわよね~。もうやめたら?」 って。 だけど。私は彼の料理に対する姿勢にほれ込んでしまっていた。 熱く夢を語る彼を応援したい! って勝手に。 銀座で店をはる彼は輝いていた。 一緒に行くお店で料理の素材やおいしさやその思いお店の人とのつながり、そんな話をイキイキと話すムツオを見ているだけで自分もエネルギーをもらっている感じがして元気がでた。 楽しかった。 輝くムツオと一緒にいるだけで自分も輝いているようなステージアップしているようなそんな気分を味わっていた。 だから週一の水曜日だけでいい。 そんな日常が当たり前になっていた。 「でもね。男と暮らすのっていいわよ。そうゆう生活のリズムができていくし。二人の生活とか時間を大事にしたいって思えてくるから」 そういう話に魅力を感じなくもないけど。 現実的にムツオと一緒に暮らすってことは想像がつかなかった。 編集部での仕事を片付けると日比谷でデザイナーさんと打ち合わせへ。 データと資料を渡して簡単なページ構成をすりあわせる。 思ったよりも順調で打ち合わせは早く終わった。 今日はこのまま直帰だし。 銀座までぶらぶら散歩してみようかな。 仕事がなければこの辺りにくることはあんまりない。 無意識にさけてるってわけでもないけど。 なんとなく遠慮が働いていたのかもしれない。 ネオンが光りだす夜の銀座。 美しくショーアップしたお姉さんや着物をきたママがタクシーで到着。 さぁ仕事です!っといった感じで気合十分。これからはじまる夜の勝負にむけて銀座の街は華やいでいた。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加