第16話 醒める

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『明日は、鮨にしようぜ』 いつもと変わらないムツオからのメール。 見られてたって知らないもんね。そうかもしれない。 でも私はすっかり気持ちが冷めてしまったみたい。 返信するのもめんどうくさい。 5年もつきあって。いまさら手のひらを返したような気持ちの変わりように自分でもびっくり。 いったん携帯をおく。 今日はライターさんと打ち合わせだ。 私が担当することになった「同級生婚」の取材をお願いする。 編集部だと、ゆい子のやじが入りそうだったので近くのお店で。 つきあいも長いべテランのライターさんとお茶をしながらの打ち合わせ。 「へぇ~。同級生婚ねー。いまさらな感じもするけど改めてスポットをあてるのも面白いのかもしれないわね」 ライターさんのツテでさらに何人かの候補をあげてもらって取材の手配をお願いする。 同級生で結婚することのメリット、デメリットは? 本人たちのライフスタイルでの感覚は? それぞれの結婚スタイルを取材できたらいいなぁって。 その旨を伝えて打ち合わせを終了。 編集部に戻るとゆい子がサメのような顔をして待っていた。 「5年の腐れ縁に終止符を打ったんだって?」 しっかりお菓子も抱え込んで人の不幸を楽しむ気まんまん。 50近くの既婚者と関係を続けるなんて自虐行為としか思えなかったもん。 お昼を食べたはずなのにさらにお菓子を食べながら言いたい放題。 いや、わかってたけどさ。 あんまりにもあっけなくてくやしいじゃない。 青春返せとまではいかないけど。 そうだ。ムツオにメールの返信してなかった。 なんて書こうかな。 考えてみれば自分で関係に終止符をうつってあんまりしたことないかも。 『ごめん奥さんといるとこ見ちゃった。もう続けられない。終わりにしよう。今までありがとう』 ……。 ほんとに芸のないメールしか浮かばない。 ってか、奥さんがいるなんて分かりきっていたことなんだけど。改めて一緒にいるところを見て、今さらながら現実を思い知った。 ため息をつく私にゆい子がちゃちゃを入れる。 お! ちゃんとお別れできてえらいじゃん。
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