第16話 醒める

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待てども待てども2名様予約のテーブルは1名様分しか埋まらず、 私は1時間を過ぎたところで自分の料理だけ注文した。 なんだ? ふられたの? なんなの? なんで連絡ないの? 電話も出ない、メールも返信ないし。 なんなの? 年上をからかっただけだったんだ。 いろんな思いが浮かんでは消えた。 そして気がつくと、 この空白の1時間の間に私は走馬灯のようにムツオとの日々を思い出していた。 やっぱり5年という月日は長くてそれなりに思い出はある。 誕生日の花束をもらったこともあったし。ホテル部屋を予約してもらったこともあった。ラウンジで飲んだカクテルもおいしかったし。ムツオが家でご飯をつくったこともあった。 やっぱりまだまだ忘れられない思い出ってあるわ~。 一人で食事をしながらしみじみ想い出を噛みしめてみたりして。 蓮はこなかったけど、こうしてゆっくりムツオとのことを振り返ることができたのはよかった。 私は、ひとりでディナーをすませて家に帰った。アパートの前につくと、バッグの中から鍵を探しながら階段を上る。いつもと違う空気、気配。はりつめたような空気に思わず鍵を探す手を止めて部屋の方へ視線をうつした。 体の大きな男が、ドアの横で壁に背中をつけてたっている。 街灯に照らされてうつむくムツオがそこにいた。
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