帰るべき場所

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夏期講習が始まり、受験生たちにとっては正念場の夏を迎えた。 二週間の予定で予備校通いをする間、ケイトはアルバイトも平日のわずかな時間に控えていた。 今は志望校に向けて結果を残す。 そんな思いで、講師の話しに耳を傾けていた。 クラスは私大特選といわれる、中堅大学を志望校に考えている現役生と卒業生が集まっていた。 わずか一年二年の違いでも、卒業生たちはどことなく年上を感じさせ、逆に現役生は初々しくもある。 「現役生は一気に勝ち取り、卒業生は同じ失敗をしないように、気持ちを引き締めてもらいたい!」 時折、マイクに向かって講師が熱くなる。 そんな彼でさえ、二十代後半から三十代の前半で、考えてみれば人の十年がどれほど貴重なのかを思わせた。 いつの間にかケイトはシャーペンをクルクル回すのが癖になっていた。 ケイトは使い慣れたシャーペンを指に挟んだままで、講師の話しに耳を傾けていたが、その視線を斜め前に落とした。 授業が始まった時から前列に座っていた女子の髪型がサラによく似ていた。 今は少しでも成績を上げることに集中しなければいけないのに、気持ちはサラでいっぱいになっていた。 あの日、映画をみた後、ファミリーレストランで二人はたくさん話をした。 サラが母親であるカナコをどんなふうに思っていて、そして尊敬しているのかを聞き、すこし彼女の印象が変わった。 傍目には恵まれているサラだが、母親を思う気持ちは人一倍にある。 東大クラスに入るために、サラはいろんな部分で我慢をしていた。 「みんなにね。娘さん、成績イイねって言われると自分の事のような気持ちになるの」 いつも明るく接しているカナコだが、家が貧乏で勉強させてもらえなかったらしい。 「だから私、そこだけは譲れないの。東大に合格して、お母さんを喜ばせてあげたいの」 親思いのサラに、二つ年下ながらもケイトは尊敬出来た。 気になっていた斜め前の娘が椅子の上に置いたカバンをイジった。 初めて横顔が見えた。似ているのは髪型だけで完全に別人だった。 サラに会いたい。今、この建物の何処かで、サラも授業を受けているに違いなかった。
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