帰るべき場所

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「なんだよ? 金でも必要になったのか?」 もうこの店に来るつもりは無かった。 「相変わらず無口だな……。まぁ、その辺に座れよ」 店は正午から営業が始まる。 午前中は、店長が一人で開店準備をしている。 「働きたいのか?」 ユカリは首を横に振った。 「じゃあ、どうした。オレに会いたくなったか?」 頷いたのにユカリを見ることもなく、「だよな。オヤジに恋なんてしないか?」と自虐的に肩を震わせながら笑った。 「ムズムズするのか?」 いつもの様におしぼりを用意していた。 「女ってのは男で変わっちまうんだ。何人もの男に抱けれれば、否応なしに身体もそうなっちまうのさ」 やはり男はユカリを見なかった。 「お前、薬屋でバイトしているんだって? この前、来た奴が話してたぞ。そうか、その事で来てのか?」 鋭い眼光でユカリを見た。 「こういう店で働くと、一回くらいなんてことなくなる。でもな、断る事も覚えろよ。じゃないと相手は勘違いしてくるぞ。誘えば寝る女だってな」 他の娘達よりも大きな胸もコンプレックスだった。 けれどそれ以上に、男からの誘いを断る事が出来なくなっていた。 父親との過去。 それを払拭したくて、いろんな人と寝たけれど、言い寄られて断ることは一度も出来なかった。 寝るのが平気だからばかりではない。 父親から受けた心の傷は、ユカリをそれが出来ない娘にしていた。 「しゃぶりたいのか?」 男がユカリの目の前で、細く縮んだウインナーを差し出した。 「バカな女だな!」 口に含むと、段々と元気になっていくのを五感で感じた。 心が落ち着くのを感じてしまう。 頭が真っ白になっていく。 男に導かれるまま、ソファーの背もたれに身体を預けた。 後ろから挿し込まれると、膝が崩れそうになった。 頭の中で全ての想いが吹っ飛んだ。 ここが自分の居場所だと身体が教えてくれた。
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